中野純子先生の遺作となる珠玉の短編漫画集「Say,good-bye」収録・第3作めの「盛春少年」は、複雑な家庭に育った高校生・裕太が、親の再婚相手の娘・みのると入学式で再会する物語です。
親はすぐに別れて、ふたりが暮らしたのは実質1年間。
裕太に会いたくて、こっそり同じ学校に入ったみのると、「みのるには会いたくなかった」という裕太。その理由とは・・・
作品名:「Say,good-bye」
作者:中野純子
Say,good-bye「盛春少年」のあらすじ
他の人は愛さないという約束
父親の再婚で傷ついていたみのるは裕太に依存するようになり、できもしない約束をして別れ、再会してしまいます。
裕太はみのるの心を守るために誓うものの、幼いころの誓いのままに、ずっと好きでいてほしいという願いは成長した男の子にとっては荷が重い。
そんなジレンマが描かれています。
北海道にいたはずの岸みのるが高校の入学式にいて、岡崎裕太は驚いた。
父親に隠して同じ高校を受験したというみのるは「逢いたかった」と言うが、裕太は逆にみのるとは二度と会いたくなかった。
すでに、裕太は新しい女性と出会っていた。
みのるのことを忘れて、心を切り替えてやり直すはずだったのにーーと悪夢を見ているような気分になる。
再婚した両親がたった1年で結婚を解消することになる少し前に、みのると裕太は「お互いに一生他の人は愛さない」という約束を交わしていた。
みのるは、今でもあのときの約束が生きていると信じていた。
裕太はとっくに新しい女性がいて裏切っていたが、みのるを傷つけたくないので隠し、前と同じように振る舞う。
「盛春少年」の感想
親同士の再婚により、義理の兄妹だと思っていたはずが、血のつながりのある禁忌の関係。
そのことに気づいたときには、すっかりお互いを好きになっていたわけで、みのるは裕太との約束だけを胸に生きてきました。
裕太も似たようなものでしたがみのるを忘れてしまおうとしていて、父性愛のような「守りたい・傷つけたくない」という強い気持ちと、一度理性が飛んだら抑えられない激情があって我慢し続けていました。
「我慢するのはもう嫌だ」と、みのるの気持ちに応えようとした裕太でしたが、結局は常識を捨て去ろうとしても捨てきれなかったために「他人」になることを選びます。
お互いのことが好きで愛し合っているのに、別れなければならない二人というのはすごく切ないものです。
学校で見つめ合っても、もはや言葉を交わそうとすらしないふたりの姿が、どうしようもないやるせなさに満ちていました。