中野純子先生は「週刊ヤングジャンプ」で活躍した人気漫画家でしたが、2012年に病で急逝され、その才能を惜しまれている作家です。
「Say,good-bye」は、中野先生の選りすぐりの作品を集めた短編漫画集で、子供だけがほしい女性と妻が子供を欲しがらない既婚男性との恋や、禁忌の間柄の兄妹など切ない男女関係を描いた作品が収録されています。
こちらでは第1作めの「アタシに愛を!」のあらすじと感想をご案内します。
作品名:「Say,good-bye」
作者:中野純子
Say,good-bye「アタシに愛を!」のあらすじ
子供がほしいけど結婚したくない女性
なかなかショッキングな出だし。
結婚だなんてめんどくさくてという女性が、選択した新しい生き方。
彼女に協力することにした一郎ですが、一郎からは連絡できない。それが「ルール」のひとつだったから。
もうひとつのルールは、恋をしてはいけないこと。
「あること」を境に、ふたりの距離が一気に縮まります。
田中一郎は妻にプレゼントする絶版写真集を探すために、個人フリマ雑誌を読んでいた。
だが、ある個人広告が目に入ってしまい、それどころではなくなる。
その内容は、25歳のOLが子供はほしいけれども結婚はしたくないから、遺伝子を提供してくれる男性を募集するというもので、その気があるなら手紙をくださいという。
一郎は思うところがあって、その女性・山田愛子に手紙を出した。
自分は32歳の既婚者で、妻はベストパートナーであり傷つけたり別れたりする気はないこと。
ただ、妻との間に子供がもてそうにないので、男として自分の遺伝子を残したいし、僕の血をわけた子供をしっかり育ててくれるのであれば、あなたに協力したいと考えたーーと正直に自分の思いをつづった手紙が愛子のもとにとどき、数ある応募者の中から一郎が選ばれる。
「アタシに愛を!」の感想
一郎も愛子も、「不器用な人」という印象。
誠実なのに、妻に対して不実な行動をしてしまっている一郎は、罪悪感を感じながらも「誰かを深く愛したい」という無意識の気持ちから、愛子に惹かれていきました。
一方、愛子もまた心のどこかで愛することに憧れていながらも、「誰にも愛情を感じない」という思いを抱えていて、自分の母親のアドバイスどおりに「結婚が嫌でも子供を産めば、それが生きる力になる」と信じて、冒頭のちょっと信じられない広告(笑)を出してしまいます。
合理的で割り切っているように見えた愛子でしたが、やはり一郎の穏やかさと優しさに自然に惹かれていくように。
短編なのに、それぞれがどんな思いを抱えて人生を生きてきたのかが伝わってきて、読み終わったあと胸にズシン、ときました。
登場人物たちが理性的な人ばかりなので修羅場という修羅場もなく、お互いの正直な気持ちを伝えて納得して別れ、生涯をともにする人を選び直します。
大人の恋だなあ、と余韻に浸れるお話でした。