若様の壮絶な過去が明かされた番外編的な前回。今回の「見えない子」はチヌの身近で起こった「幽霊騒ぎ」のお話になります。
意外とお化けなどの怖い話が好きだったチヌが、好奇心からお化けが出るという松ヶ枝楼に出かけますが・・・
作品名:声なきものの唄~瀬戸内の女郎小屋~
作者:安武わたる
「声なきものの唄」第九話 あらすじとネタバレ
松ヶ枝楼のお化けに興味津々のチヌ
女郎たちの間で「松ヶ枝楼にお化けが出る」という噂を耳にするチヌ。
怖いもの見たさで、わざわざ出かけて松ヶ枝楼を訪ね、「お化けが出るって聞いたんやけど」と聞きに行く。
お化け騒ぎで苦労している一枝は、チヌに声をかけられて貧血で倒れてしまう。
一枝にまとわりつく子供の霊
一枝は、早くに両親を亡くし、養父母にいじめられ、挙げ句の果てに下層遊郭へ売られた不幸な女だった。
そのうえ夜毎、奇妙な子供の霊に悩まされている。
ほかの女郎のもとにも幽霊は現れ、「お祓いをしてください」と大騒ぎになるが、ケチな楼主は金を出そうとはしない。
「あんお化けはうちの子かもしれん」
女郎たちの子は無理やり流され、裏庭に埋められていた。
子供の幽霊にこころあたりのある女郎ばかりで、気の滅入るような空気が漂っていた。
チヌに嫉妬する一枝
倒れた一枝を気遣ってチヌは薬を届けさせたが、太客もいて一流のお店で羽振りのいいチヌを見て一枝は嫉妬してしまう。
「うちらに施しをして気分ええんか!」
おまんじゅうの差し入れに来たチヌに、一枝はうまいこと口でまるめこんで、着物やかんざしをせしめて裏で笑った。
若様の心の変化
使用人の栄太は「どう見たってそいつにたかられている」とチヌに注意するが、チヌは自分は運がいいから恵まれているが、一枝は不幸な生い立ちで体調も悪そうだから良くしてやるのだ、と喧嘩になる。
チヌはたかれていることはわかっていたが、人にいいことをしてやれば、そのぶん姉のサヨリに運が向いてくるのではないか、という思いがあっての行動だったのだ。
「栄太くんとはケンカできるんだね。でも、僕とはできない」
そんなチヌを見て、やや皮肉めいたことを言う若様にチヌは驚く。
若様は自分にとって「神様」であり、そんな大切な人と口喧嘩なんてとても・・・というチヌに、「神様ってつまらないものだね」とさみしげに話す若様。
まるでチヌと栄太の気安い関係に嫉妬しているかのような口ぶりに、チヌは少し戸惑う。
入水する一枝
一枝の前に何度も子供の霊が現れ、仕事どころではなくなってしまう。
「あんた、こん腹の子やろ?」
一枝のお腹には新しい命が宿っており、見世にでる化物はこの子だろうと考え、海の中に入り決着をつけようとした。
たまたまそれを見ていたチヌは止めようとしたが、一枝は「ずりいわ、あんたばかり運が良くて」と、助けを拒む。
海で溺れてしまいそうになるふたりを、チヌのあとをつけてきた栄太が助けて事なきを得た。
オカアサン、と呼ぶ幽霊
腹の子ともども助かった一枝だったが、目の前に子供の霊が現れて恐怖した。
「オカアサン」
子供はまっすぐに一枝の腹の中に歩いて、入っていった。
それを見た一枝は、やっとお腹の子が自分の家族であり、守りたいと感じて足抜けを決意する。
「声なきものの唄」第九話の感想
今回はお化け騒ぎでユニークなお話でしたね。「お化けが見たい!」なんてミーハーな・・・と思いましたが、チヌは両親が早くに亡くなってしまったので「両親にお化けでもいいから会いたい」という気持ちがあったから見に行ってました。
奇妙な子供の霊は、やはり一枝のお腹の子の霊魂?で、このままでは生まれてくることができないから目の前に現れたようです。
一枝にチヌの気持ちが届いて本当に良かったです。
誰かが自分のために真剣に泣いてくれたことが有難かった、とお腹の子と新しい人生への再出発を決めて旅立った一枝は、すごくいい顔をしていましたね。
一瞬だけ、チヌにも「幽霊」が見えたようで、見に行った甲斐があったのかも。
あと、若様が微妙にチヌに対して「かわいい妹」から「女性」として気持ちが変化しているのかなー、と思える描写があったので、そろそろふたりに進展があってもいいころだなあといいムードでした。