晴れて謹慎も解け、「千鳥太夫」に返り咲いたチヌ。
第19話「渇望」では、チヌを巡って、若様と後藤田の男のバトルが勃発します。
さらに昔、美しい太夫だったおシノという老婆が見せた、老いさらばえた女郎の末路に哀しみを覚えるお話です。
「声なきものの唄」第19話 渇望 あらすじとネタバレ
千鳥太夫をとりあう若様と後藤田
「千鳥太夫」に復帰したチヌは、久々の見世とあって馴染み客からのご祝儀がたっぷりあり、楼主も「こりゃ玉代2倍でもイケルで!」と大喜びしていた。
最初の客は後藤田で、子猫を失って泣いていたと聞いた彼は高級なペルシャ猫を土産にやってきた。
だが、間が悪く若様もかわいい三毛猫を連れてきて、場は緊張で高まる。
鉢合わせした後藤田と若様は自己紹介し合うものの、「千鳥の旦那に名乗りをあげよと思っとる」と後藤田が告げると若様とのあいだに冷たい空気が。
どちらの子猫をもらってもカドが立つ・・・と困っていたチヌだったが、そこにおシノという下働きの老婆の猫が乱入して騒ぎになり、うやむやになってしまった。
おシノの身の上
番頭の口利きで入ってきたおシノは、昔は大層きれいな女で「羽衣太夫」と呼ばれる売れっ妓であった。
若い頃は優美な美しさで何度も身請けされたが、男に頼り切る弱い性質で何度も追い出されて見世に出戻り、とうとう男に見向きもされない年齢になってしまい残されたのは猫だけ。
猫を「おヒィ」と呼んで、昔の美女の面影もない醜い老婆になったおシノは、番頭との昔の縁でなんとか東陽楼の下働きとして雇ってもらったのだ。
おシノが掃除をしていると、お年寄りに優しい一面があった後藤田は先日の騒ぎを謝り、チヌへの贈り物のついでに「わびや」とおシノにかんざしを与えた。
そんな後藤田におシノは頬を赤く染める。
若様の悲しい笑顔とチヌの決意
猫のおヒィが逃げたのを追いかけたチヌは、途中でばったりと若様と出会う。
何もなかったかのように笑ってくれる若様に、ホッとするチヌであったが、若様の笑顔にはどこか少し悲しいところがある、と思う。
「若様は、奥様はもらわれんとですか」
つい、口が滑ってしまったチヌだったが、若様は胸の傷が残っているからと言い「これがあるうちは幸せになってはいけないんだ」と悲しく笑う。
そして自分のことが嫌になったらいつでも捨てていいからね、という若様に「あのお人の笑顔をほんまもんの笑顔にすることが、うちの役目」だと決意する。
なびかないチヌに怒る後藤田とおシノの粗相
若様が特別な存在だと再認識したチヌは、後藤田をはじめとする他の客はあくまで「それ以上でもそれ以下でもない存在」と気持ちを切り替えた。
そんなチヌの気持ちを敏感に察した後藤田は面白くない態度を取り、おシノはやきもきしていた。
気になりすぎて部屋をのぞいてしまったおシノに、激怒する後藤田。
「のぞいとったんか!気色ワリィババアやな!」
太客である後藤田を怒らせて、店を追い出されてしまうおシノ。
そんなおシノを心配したチヌは追いかけたが、こっそりとチヌの部屋に忍び込んで美しい衣装を着て化粧するおシノを見つけてしまい・・・
「声なきものの唄」第19話の感想
若様と後藤田の男の火花が飛び散る・・・! チヌをめぐる男の戦いはまだまだ続きそうです。
たまたま同じタイミングで、同じ「猫」という贈り物をしようと考えるあたり、ふたりとも思考回路が似たところがあるのか。
チヌが喜びそうなものを真剣に考えた結果かもしれませんね。
でも、今回の勝負は若様の勝ち。
チヌは後藤田を「自分をおもちゃとしか思わないただの客のひとり」と認識し、若様だけがひとりの人間として「僕は君が好き」と笑ってくれる特別な人だとキュンときます。
若様の今はもう亡き妻との事件で残った胸の傷。
それは物理的な傷だけではなく、心の傷でもあって優しいチヌは若様を「心からの笑顔」にしてあげたい、と思うようになっていきます。
さて、その裏で進行していたもうひとつのストーリーは「老いた女郎の末路」でした。
チヌの付き人である美緒が「おのれの無残な成れの果て、見とうないわ!」と言ったとおりに、どれほど売れっ子になってもてはやされた女郎であっても、若さと美しさが消えた老婆になれば無残なもの。
おシノの存在は、天女のように美しかった太夫でも、美貌を失えばどん底の惨めな老後を送るしかないと暗い気持ちにさせられるものでもあります。
後藤田に愛想よく接してもらったおシノは勘違いしてしまい、最後はちょっとボケて?昔の美女だった自分に戻ったつもりになって着飾り、さらに醜悪な姿に・・・。
もちろん、チヌにはこんな最後は待っていないでしょうが、改めて女郎という存在の哀しさを感じてしまいました。