ポールの遺産を相続し、日本に15年ぶりに帰国したタカ。
病弱な妹・ヤエに再会できるのを楽しみに実家へ帰ったタカでしたが、心の支えだったはずの家族はすっかり変わっていて・・・
「からゆきさん」おタカの過去、東陽楼を乗っ取ろうとする理由、そしてチヌを守ろうとする若様。さまざまな思いが交錯する大円団な感動エピが第15話「望郷」です。
作品名:声なきものの唄~瀬戸内の女郎小屋~
作者:安武わたる
「声なきものの唄」第15話 あらすじとネタバレ
実家に戻ったタカが見たもの
外地から日本の実家に帰ったタカは、みんなを驚かせようと帰国を知らせていなかった。
だが、実家では弟の祝言が行われており、知らなかったタカは逆に驚いてしまう。
「広助!? あんたまあ、今日が婚礼やなんて!」
親族一同がそろう中で、久しぶりに家族に会い、婚礼の席だと知って喜ぶタカだったが、兄弟たちの顔は青ざめていた。
「タカ! 戻ってきたんか・・・」
兄の康吉もすでに結婚して嫁のスミがおり、タカが長い留守をしている間に家族はすっかり変わっていた。
義姉のスミは不器量な女だったが、「みな出稼ぎしてくれたタカさんのおかげです」と、送金して養ってくれたタカに感謝を伝える。
亡くなった妹と、家族の裏切り
せっかくの祝の日。心から祝福しようと思っていたタカに、康吉は「式には出んでくれるか」と言い出した。
外地で「からゆきさん」をやっていたような身内が、嫁の親族に見られては顔向けできないのだ、と。
「うちが、恥ずかしいんか? ようもそんな・・・
誰んために、体売ってたと思っとるんや!家族を飢えさえたくねえと!!」
騙されて外国で血を吐くような思いで、ひたすら「家族のために」と耐え、異国で命を落とす危険と隣合わせで、神経をすり減らしながらもやっと生き延びて帰ってきたのに。
あのみじめさ、絶望と痛み。
それらを思い返して、自分の帰国を喜ばない兄弟たちの冷たさにタカの心は冷えていった。
「ヤエはどこや? 療養所か?」
ヤエなら、妹なら自分の帰りをきっと喜んでくれる。
だが、兄は無情にもヤエがとうの昔に亡くなってしまった、と告げた。
タカが外地へ出て2年後、兄は送金を止められたくないためにタカに嘘をついて「ヤエに金がかかる」とせびり続けていたのだった。
身内の顔をつぶすために東陽楼を買収したいタカ
チヌに自分の過去を語ったタカは、家族のために血肉を捧げた自分の気持ちを裏切った身内の顔に泥を塗るために、東陽楼を買収したいのだと話す。
「いっそ、うちが女郎屋やったら、もっと外聞悪いやろ!?」
買い取ったら、女郎たちにえげつない真似をさせて、あの兄弟たちに恥をかかせてやるのだ、と笑う。
タカの壮絶な過去を聞いて、チヌはどうしても彼女が悪い人だとは思えなかった。
だが、見世への嫌がらせがつづき、客足も途絶えるようになり東陽楼は追い詰められる。
若様の粋なはからい
客が来ず「お茶引き(指名のかかない女郎のこと)」が続く日々で、女郎たちもイライラしてケンカばかりになる。
このままでは終わりだ・・・と楼主も頭を抱えていると、若様がやってきて陣中見舞いをしてくれた。
そして「見世の主人と娼妓は同じものを食すべし」という信念をもっているから、という理由で楼主・藤富に「僕はね、あなたを信頼に足る人物だと思っています」と励ます。
さらに閑古鳥が鳴く東陽楼を貸し切りにして、「みなさんのとびきりの芸を見せてください」と女郎たちを鼓舞した。
若様の粋なはからいと心意気を感じ取った女郎たちは、諍いを忘れて精一杯の芸を披露し、元の東陽楼のいい雰囲気になった。
「すげぇな、すげぇな、若様。
さすがうちの若様や」
チヌは若様の振る舞いに感激して、「うちのためになんて、大それたこと考えてええんやろうか」と乙女心にときめく。
東陽楼に放火!?責められるタカ
だが、見世の裏で放火しようとしていたチンピラが見つかり、大騒ぎになる。
いくら嫌がらせでも、限度というものがある。火付けは大罪であり、男たちはタカに石を投げて集団で責め立てた。
「どこまで卑怯な真似する気や!こんからゆきが!!」
火つけはタカの指示ではなかったが、行き過ぎたことをタカ自身もわかっており申し開きできない。
「おタカさんを責めんでくだせえっ」
そこに現れたのは義姉のスミと甥っ子たちだった。石で打たれそうになるタカをかばって許しを請い、自分を守ってくれる身内がいるのを知ってタカは泣いた。
タカが欲しかったのは、家族からの詫びと感謝の気持ちだけ。
チヌはタカの気持ちを察して、栄太にこっそりとスミたちを連れ出してもらっていたのだった。
タカの新たな門出
東陽楼から手を引いたタカは、もはや恨む気持ちはないとはいえ兄弟たちと暮らすわけにもいかず、これからどうしようかとおもいあぐねていた。
だが、時折通りで陰から自分を見張っている存在に気づいており、その男を追いかけるとなんと張だった。
「張、なんであんたがここに!?」
ゴム農園を出て以来、もう二度と会うこともないだろうと思っていた男と再会したタカ。
遺産をタカに渡したことでポールの親族から横領を疑われて争いになり、張はそのとき片腕を失って、タカにまで害がおよんでいないか確かめにきたのだという。
「心配して、見に来てくれたんか?」
懐かしさに涙ぐむタカは、アジアのどこかで商売をして暮らすという張の腕の代わりになる、と言って海を渡り新たな人生の門出に羽ばたくことに決めた。
「声なきものの唄」第15話の感想
声なきものの唄の「からゆき編」というべき、おタカの人生を描いたエピソードが完結。
家族のために外国へ行き、どんな辛い目にあっても耐え、心の支えだったはずのその家族から、帰国後に裏切られるという切ないおタカの気持ちが胸にキューッとくるお話。個人的に身にしみるエピです。
そうなんですよね・・・家族に尽くしたのは見返りがほしいからじゃなくて、「ありがとう」とか「お疲れ様」といたわって貰えればそれで十分。
それなのに、タカは「からゆきさん」はヨソに外聞が悪いからと「家族の恥」扱いされてしまったわけで、本当にひどいです。
日本に帰れれば、あったかい家族が待っている・・・というタカの期待は裏切られ、最愛の妹もすでにこの世にはいなかった。
残っていたのは自分の送金だけを当てにして、ぬくぬくといい暮らしをして努力せずにタカって生きることを覚えてしまった兄弟だけでした。
義理の姉・スミと甥っ子たちが良い子だったので、救われるのはその辺ですね・・・。
東陽楼乗っ取りはとんだとばっちりでしたが、若様のいいところが見られたので不幸中の幸いでしょうか。
最後はタカが心配で様子を見に来た張と、新しい人生に再出発して晴れ晴れとした笑顔のおタカさんが見られたので、幸せな気持ちになれました。
「からゆき編」は本当に感動だったなあ。
安武わたる先生の描くお話はキャラが魅力的で、実在の人物のようにその人生をありありと想像できるところがすごいと思います。
次回はチヌの本編かな~? つづきが待ち遠しいです。